天皇とくると本当に言いたいことは山ほどありますが、まあほどほどに。
第一章 天皇
(天皇)
第一条 日本は、天皇のしらす君民一体の国家である。
2 天皇は、国の伝統の祭祀を主宰し、国民を統合する。
3 天皇は、国民の幸せを祈る神聖な存在として侵してはならない。
(皇位継承)
第二条 皇位は、三種の神器をもって、男系男子の皇嗣が継承する。
2 皇位の安定継承のため、皇室は、その総意として皇室典範を定める。
3 皇族と宮家は、国が責任をもってその存続を確保しなければならない。
(天皇の権限)
第三条 天皇は、全国民のために、詔勅を発する。
2 天皇は、元首として国を代表し、内閣の責任において、以下の事項を裁可することができる。ただ し、同じ事項につき内閣から重ねて奏請があったときは、これを裁可する。
一 内閣総理大臣、国務大臣、国会の議長及び最高裁判所長官の任命(以下略)
3 摂政は皇族に限り、皇室典範に基づき権限を行使する
明治憲法の、
第1条大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス
第2条皇位ハ皇室典範ノ定ムル所ニ依リ皇男子孫之ヲ継承ス
第3条天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス
に比べると、随分軽いですね。明治憲法、好きじゃないけど。「ああ~天皇家は万世一系じゃないんだ」、とか突っ込みたくなります。万世一系ではないことを認めているのでしょうか、さすがです(笑)
「天皇のしらす君民一体」君民一体ということは、二二六事件の人たちのように、天皇がいて、直接臣民を統べるという主張ですが、そうすると、この以降の国家などの条文は不要となりますね、とかのつっこみもしたくなります。そして、この「しらす」ですが、これも、岩波文庫『憲法義解』の坂本一登さんの解説によると、「保守的な国体観というより、大胆な伝統の創造」「西洋の国家学を踏まえて、日本天皇統治の正当性を、神話というより当時の文明的で倫理的な基準から評価したもの」、すなわち「西洋の視線を意識した上で、天皇統治を再解釈した『創られた伝統』」なのだそうです。「しらす」という概念は、西洋の視線を意識したものでした。どこにいっても日本独自のものなんてありませんね。
「国の伝統の祭祀を主宰し、国民を統合」、つながりがよくありませんね、必ずしも政教分離を認めたくないからというだけではないですね。「伝統の祭祀」は大嘗祭や新嘗祭などのことでしょうが、こういうことは、明治憲法にも皇室典範にも規定がありません。明治憲法は神道と信教の自由とのかかわりでかなり神経質につくられているので、書いていないのか、そもそも祭祀を憲法の条文にはそぐわないと判断したのか、よくわかりませんが。
「天皇は、国民の幸せを祈る神聖な存在として侵してはならない」、非常に味わい深い条文です。まず、言っておきたいのは、「べつに天皇さんから幸せを祈ってもらいたないで、いらんおせっかいや」ということです。勝手に祈っていてください。「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」ではあまりに無愛想、君民一体とかいっているので、臣民に寄り添ってあげようという心づもりかもしれませんが、そうはイカの問屋が卸しません。
「皇位は、三種の神器をもって、男系男子の皇嗣が継承」、まあ、女系女子の天皇は認めたくないでしょうね。ちなみに、江戸時代には二人、女子の天皇がいました。そして、出ました!三種の神器!カー、クーラー、カラーテレビ(古い)ではなくて、天叢雲剣、八尺瓊勾玉、八咫鏡です。それぞれがどういうものか、いちいち説明するのは省きますが、天叢雲剣は須佐之男命が八岐大蛇を退治したとき、しっぽから出てきた剣です。さて、平安時代の末期、平家が源氏に追われて都から西に下りました。その時、安徳天皇と三種の神器をほうじて壇ノ浦で源氏を迎え撃ったわけですが、結果はこの時、平家は滅亡、三種の神器は海の底に沈んだ、はずですが、どこからか出てきたりしています。日本、すごいですね。三種の神器については、明治憲法に記載はなく、皇室典範に書かれています。その方が、私みたいに変なつっこみをする輩を排除できてよかったのでしょう。また、南北朝正閏問題も絡んでいるのでしょうか。
権限に関しては、3項で天皇の権限が強化されています。それ以外はあまり変わらないようです。明治憲法から見てもやや、絞ったようにおもえますが、
第11条天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス
第12条天皇ハ陸海軍ノ編制及常備兵額ヲ定ム
第13条天皇ハ戦ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ条約ヲ締結ス
第14条天皇ハ戒厳ヲ宣告ス
2 戒厳ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ムこういった、条文はありません。天皇に統帥権を付与しなかったのはなぜなのでしょうか?あとで出てきますが、「自衛軍」の最高指揮者は内閣総理大臣なのです。参政党、意外とビビりなのですな。いちいち整合性があるようでないのも興味深い点です。
天皇を元首とか言ってますが、そもそも世界の趨勢に逆行した草案であるということは明白です。
